「ドーパミンのおかげで注意ぶかくなったのね。
これは時機を逃さないうえで大事なのよ」おそらく人間でも、これに近いことが起きているだろう。
思春期に入って、エストロゲンがドーパミンの分泌をうながすと、まわりの世界が明るく見えてくる。
ティーンエイジャーにとって、世界は活気にあふれたところなのだ。
それは彼らの行動にも影響しているにちがいない。
Bは次のように語る。
「思春期は、世界のなかで自分の居場所を見つけようとする時期よ。
この時期に子どもたちが生きている世界は、実際より大きく、サイケデリックな風景にあふれている。
赤はより強烈な赤に、青はいっそう深い青に見える」世界のすべてがまばゆいばかりに輝き、勢いがあるように思えるだろう。
ただこうした強烈な体験は、逆にも作用する。
憂うつで惨めな気分のときは、見るもの聞くものが恐ろしくて脅威に感じる。
母親が何げなく眉をひそめたり、フォークダンスで相手がちょっとよそ見をしただけでも、悪いほうに解釈して、この世の終わりだと思ってしまう。
ドーパミンは、心の窓をド派手な紫色に塗るだけでなく、心のラジオを大音量で鳴らして、「その手でつかめ!やってみろ!飛べ!」と駆りたてているのだ。
ホルモンが人間の身体でどんな働きをしているのか。
無理からぬことかもしれないが、この疑問を追求する道は険しく、激しい議論がつきものだ。
Dが著書「N」で紹介したように、脳のなかでホルモンが引きおこす性差の研究は、科学というよりむしろ政治的な理由から長年手つかずのままだった。
これは人びとが腹を立て、警戒を強める話題なのだ。
プラムによると、19世紀の有名な神経科学者で、脳の言語野を発見したP・Bからして、女は男より脳が小さいので頭が悪いと主張していた。
女性の脳は、男性の脳より平均で15パーセントほど小さい。
重さにすると85グラム前後の差がある。
PはBのこんな発言も引用している。
「女性の脳が小さいのは、たんなる体格の差から来るものかもしれない…だが女性は概して、男性ほど聡明でないことを忘れてはならない」。
これは100年前の話だからまあしかたないが、1960年代に入っても、状況は改善されたわけではなかった。
Pは次のように書いている。
「科学界の姿勢は振り子のように揺れて、P・Bと正反対になった。
つまり大きさのちがいはやむなしとして、男女の脳はまったく同じという考えが一般的になった」。
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